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    すると、間もなく診察室の方から急ぎ足で出て来た房一は、道平を見るなり、

    「一つ着て見せたらどうです?高間さんにはきつと似合ひますよ」

    「それは、まあ、都会風でいけばそれでいゝわけだが」

    「あ、さう云へば」

    「わたしはね、こいつは割れさうだなと思つたもんでね」と、笏で自分のはいている木沓を指して、

    盛子は笑ひながら顔を紅らめた。

    遠くの方で誰かが呼んでいた。

    「それが、その、来ないわけがあるのさ」

    「あれですかね、やつぱり自分で歩かなくちやいけませんかね」

    「ね、お母あさん。これ、こんなに汚いでせう。もう少し……たいんですけど。……でせうねえ」

    診察がすむと、房一は別の客座敷へ案内された。そこには、床柱の前にお寺さんに出すやうな厚ぽつたい綸子りんずの座蒲団だの、虎斑とらふの桑材で出来た煙草盆などが用意されてあつた。都会地では一時間もかゝらないやうな往診が、この田舎では小半日もつぶされてしまふ、そのくどいもてなしの習慣を知り抜いている房一は、無下むげにも断りかねてそのまゝ坐ると、間もなく和服に着換へた相沢が現れ、その後から銚子を持つた夫人が入つて来た。

    座敷へ案内されて、まず自分の居どころが決まると、携帯の荷物をかたづけて、型のごとくに入浴する。そこで一息ついた後、宿の女中にむかって両隣の客はどんな人々であるかを訊きく。病人であるか、女づれであるか、子供がいるかを詮議した上で、両隣へ一応の挨拶にゆく。

    「いや、危険はまづない見込だ。だが、何と云つたらいゝか――」

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