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例の奉祝行列のお終ひに小谷から慰労宴をやらうと云はれたときに、房一は道平が練吉の診察を受けたまゝになつているのを気にかけていたことを思ひ出し、練吉をも加へて小谷と二人を招待しようと云つたのだが、小谷はそれはそれ、これはこれと云つて聞き入れなかつたので、改めて今二人を料亭染田屋に招いたのであつた。
「や、さあお上り下さい。さあ――」
「先代がぽつくり死にましてね。おかげでこんな所へ引つこむやうになつてしまつたんですが」
「わたしはね、こいつは割れさうだなと思つたもんでね」と、笏で自分のはいている木沓を指して、
と云つた。
間もなく房一が帰つて来たらしい。
と、練吉はわざとらしく顔をしかめてみせた。
御大典とそれにつゞく奉祝日は瞬またゝくまに過ぎ去つた。
ふいに、徳次はしたゝかに横頬を殴られるのを感じた。容赦のない力が彼の首すぢをつかまへ、又やられた、一つ、二つ。それは、突然うしろからやつて来た。何だか判らなかつた。そして、抵抗するはずみを失ひ、きよとんとして見上げた。
と、彼は恐しく手まどつて答へた。
「いや、そのうち。――ぜひ御相談があるんですが。――そのうち、一度来ていたゞいて。いや、私の方から出かけませう。や、又――」
「えらい評判ですなあ。けつこうですよ。ぜひ話しに来て下さい。わたしはこんなにいつもひまですからな」
黒い影はぴよこりとお辞儀をした。それから台所から射す光りの中に全身を現すと、それを眩しがつているとも照れたとも見える表情を浮べながら近づいた。
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